「ご馳走様!! おいしかったです!!」
部下の新人君と女性1人を連れて3人でランチに行った時のコト。
行きつけのカレー屋さんのレジを後にする時、彼女は元気いっぱいにこう言って、嬉しそうにお金を払った。
その光景は昼飯時の僕の楽しみのひとつだ。ちなみに僕は上司だが、この店でおごったことはない。なぜならめちゃくちゃ高いからだ。だいたい1食1500円くらいする。しかしそのカレー屋さんはリアルにうまい。いや、うますぎるのだ。
なんだか申し訳なく思った僕は、珈琲ぐらいなら奢ってやるかと、「じゃ、食後の珈琲でも買いに行こう!」と提案する。
さっきはレジで横顔だけだった彼女の嬉しそうな笑顔が、今度は真っすぐ僕に向けられた。なんだかとてもお得な気分で嬉しくなる。
店から出て珈琲を買いに行く道中、「これだけ高かったらうまくて当たり前ですよね、あのカレー」と新人君。
大金をはたいて、なんだか損したような口ぶりで「明日からまたコンビニだなぁ」とさみしそうに言った。
すると元気な彼女がかぶせるように「明日もまた来よーよー!!」という。
「そんなにお金続かないよ」と新人君がいうと、「あんたと給料たいして変わんないよ!」と彼女。「じゃあ、やっぱり無理じゃん!!」と二人で笑いあった。
たしかに彼女は裕福とは言えない給料だし、身なりも決して派手で高いものは身に付けていない。上品ではあるが、どちらかというと質素で、控えめな感じだ。それでも、嬉しそうにお金を払う彼女と、損したようにお金を払う新人君。
そんな2人の後ろ姿を見て、同じ値段のカレーを、同じ時に食べてどうしてこんなにもリアクションが違うのだろうと不思議に感じた。
なんだか彼女って『なんて豊かなんだろう』と。
しばらく歩くと人気の珈琲店に到着。「好きなの頼んで良いよ」と僕が促すと、新人君は気を遣ったのかオーソドックスな安めの珈琲を選び、彼女は一番高い珈琲を選んだ。しかし遠慮がないとか、図々しいとか、そんなチープな雰囲気はみじんも感じない。彼女の発しているオーラは、不思議とおおらかなのだ。だから一番高くても気持ちよく奢ってしまう。
財布の中身は一瞬確かに寂しくなるのだが、僕のほんの数百円のお金がとても豊かで尊い何かに変わったような気がするのだ。なぜなのだろう。さらに彼女が素敵なのは、その珈琲をとっても美味しそうに飲むところだ。
豆の一粒一粒に想いを馳せるかのように、じっくりと味わいながら
「あぁ、おいしいぃ~」
と目をつぶる。
すると、次の瞬間、彼女はビックリするほど大きな声で人差し指を空に向けた。
「この珈琲に1票投票!!」と。
「なに?どういうこと?」と僕が聞いてみると、彼女は嬉しそうにこう続けた。
「私、何かにお金を使う時は、常に1票を投じるかどうか考えてから使うようにしてるんです。まるで選挙みたいに。
高いものが良いってわけじゃないんです。政治家だってそうでしょ、お金持ちだからっていい政治家とは限らない。それよりも、もっと想いのこもってるようなものが良いんです。ホントに良いと思ったら、迷いなく1票投票って言って、それを買うんです。有り金を全部使ってもいいくらいの気持ちで!!」
彼女はさらに勢いづいて続けた。
「たった一杯の珈琲でも、バリスタさん、工場の人、豆を育てている人、物流のおじさん、などなど。この一杯の珈琲のためにどれだけの人と時間とお金が費やされているかを想像して飲むとすごくおいしくなるんです。コレがたったの300円!! なんて安いんだろう!! って思っちゃうんです」
と。
「1票投じるって、まるで感謝の1票なんだね」と僕が言うと。
「そうなの。いいものにたくさんお金が払われれば、創っている人達みんながもっと潤って、さらに良いものを気前よく創ってくれるじゃないですか。そしたらさらにいいものが、もっとお手軽にみんなの手に届くと思うんです」と。
彼女の笑顔いっぱいの“ご馳走様“は、豊かさの1票だったのか。
自分のお金を何に使うのか、どんな気持ちで使うのか。消費や損したくないという貧しい怖れからではなく、自分が商品やサービスを受け取れることへの感謝と、その先にいる提供者とが、うるおいの循環の中でより大きく広がって満たされていく世界をみていたのだ。
自分のお金は、心ある本当に想いの宿るものに使っていきたい。
素敵な想いを受容し、受容される世界からどんどん恩送りしていきたい。
たしかに彼女の仕事もその循環の真っただ中にあると。
豊かなお金の使い方をする人は、財布からお金が無くなっていくのではなく、“豊かさが増えていく”という発想なんだなぁ。
『お金を使う時には、そのすべての創り手に1票投票!!』
当分、僕の給料は全く増えそうにないが、明日から豊かなお金持ちになれそうだ。ありがとう。